竜の姫君
 ぜいぜい、はあはあ。
 肩で息をする。 
 頬が熱い。
 きっとみっともなく赤くなってるなあと思いつつ、エイシェルの顔を見るとこいつはこいつで眉を下げ、何やら泣きそうな顔。

「どうして、そんなに邪険にするの?」

 じわりと潤む青い瞳。
 それはエイシェルがちっちゃな幼女の姿だった頃を思い出させる。
 反則だろ、それ。

「どうしてってね。あたしは厄介ごとに巻き込まれるのはご免なんだよ」

 すでにかなり巻き込まれている気がするが、これ以上はさすがにご免蒙りたい。

「僕って厄介者なの?」

 わかってるじゃないか。
 あたしは思わず大きく頷いてしまった。
 しかし。
 敵はめげなかった。

「わかった。だったら、僕、マルガの役に立てるよう頑張るよっ!」

 両手に握りこぶしを作っての力説である。

「そ、そう。じゃ、まず、ついて歩くの止めてくれる?」
「えっ!」

 なぜ、そこでまたそんな哀しそうな顔をする。
 絆されそうになるだろうがっ!
 けど、ここで釘を刺しておかなければつけあがるにちがいない。
 あたしは心を鬼にする。

「でもって、抱きつくな」
「ええええっ!」

 何でそこでそう驚く。
 と言うか、地面に蹲って大きな背を丸め、のの字を書くほどショックかっ!
 ため息をつきつつ名を呼ぶ。

「エイシェル」

 とたんそいつは飛び上がるようにしてあたしに抱きついた。
 さっき、抱きつくなと言ったばかりだろうがっ!

「離せえぇぇぇっ!」

 またもや全力で暴れるが、今度は離そうとしない。
 馬鹿力でますます抱きすくめられる。
 勘弁してよ。

「やっと呼んでくれた」
「はあ?」
「僕の名」
「いいから、離せ」
「あっ、ごめん」

 やっと離してくれた。
 あたしはまたもや荒い息を整える始末だ。
 胸の鼓動が治まらないのは、単にびっくりしたからに違いない。
 ときめいたなんてことは、ない。
 ないたら、ない。

「立ち入り禁止っ!」
「えっ」
「あたしのまわり三歩以内に近づくな、いいな」

 言い捨ててあたしはまた歩き出す。
 後でエイシェルが固まっている気配がするが、無視だ、無視。
 絶対、無視だ。

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