竜の姫君
 後には例のアレ。
 きらきらな瞳で見上げられれば、こいつの正体を知っているあたしでさえ陥落しそう。
 周りのギャラリーはなぜか訳知り顔に生暖かい笑みを浮かべて見守ってやがる。
「誰がママだ。あたしはマルガだ」
「マア?」
「だから……」
 思い切り脱力しているあたしに、女主人は追い討ちを掛けてくれる。
「まあ、いいじゃないさ。好きなように呼ばせてあげれば」
「そうですよ。ところでマルガさん、この子、名前なんて言うんですか?」
「名前?」
 そう言われてもあたしが知るわけないじゃないか。こいつはまだよくしゃべれないし。ちゃんとしゃべれるようになるのかどうかすら不明だし。
「知らないよ」
「ええっ! 知らないんですか? ひょっとしてマルガさん、この子があんまり可愛くて誘拐しちゃったとか?」
「わお、犯罪犯罪」
 嬉しそうに言うなって。
「だれが誘拐だ。落ちてたから保護しただけだ」
「それってやっぱり誘拐なんじゃないかい?」
「ねー」
「ねー」
 ふう。
 頭、痛くなってきたところにまた服のすそを引っ張られる。
「ナァ、ナマー」
 舌足らずだが何だか催促するような調子がある。
 ひょっとしてこいつ。
「名前、欲しいのか?」
 こくんとひとつ頷いた。
 うーん。
 ま、いいか。
 とはいえ、正体不明のこの生き物になんて名を付ければいいものやら。







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