白馬の悪魔さま 【完】番外編追加

そう言うと、椿王子は再びシートベルトを締めてハンドルを握る。

「あの、どういうことですか?」

意味がわからなくて慌てる私に、椿社長は優しく甘い笑みを向ける。

「朝食に、和食が食べたい」

「朝食?」

「だが生憎、俺の部屋の冷蔵庫はつまみしかない」

「はあ、」

「だから買いに行く」

「え、今から?」

「お前が作れるものでいい」

そこまで言われて、男が意図することが頭を過ぎる。

「あの、私」

「タクシーが必要なら自分で呼べ」

エンジンのかかった車が、ゆっくりと動き出す。

「だけど俺の朝食を作ってからだ」

「……それって」

やっぱり私は馬鹿かもしれない。

「嫌なら、このまま駅まで送る。自分で決めろ」

溺れたらいけない相手なのに。
だけどそこに飛び込もうとする自分がいる。

「お味噌汁と焼き魚くらいしか作れませんよ?……それと、玉子焼き」
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