白馬の悪魔さま 【完】番外編追加
苦しくて苦しくて、だけど怖いほど満たされていく瞬間。
「甘くするなよ?」
顔を顰めながらそう言った後で、すぐにまた笑った椿社長に、どうしようもなく胸がときめいた。
こんなにも、今が恋しい。
連れて行かれたのは、時々テレビでも紹介されている高級スーパー。店内に並ぶ一つ一つの食材が、宝石のように見えてくる。
そんなセレブ御用達のスーパーであっても、この男には似合わない。凄く不釣り合いだ。
だから必要な物だけカゴに入れると、急いで会計を済ませて車へと戻ろうとする私を、椿社長は不思議そうに見ていたけれど、なんだか色々と耐えられなかった。
だってまるで別世界の住人を見たように、通り過ぎる人が皆、振り返って彼を見るのだから。
隣を歩く私は、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
とは言え、本人はまったく気にする様子もないから、これが彼の日常なのだろう。
そしてそれは、私にとっての非日常だ。
スーパーを出て、車でマンションに戻る間も、私はやっぱり落ち着かなかった。