白馬の悪魔さま 【完】番外編追加

「全部社交辞令ですよ」

「それで、その男とは?」

「……食事をしただけです」

「食事だけね」

疑うような視線に、なんだか責められている気分になる。

「キス、されそうになったけど、断りました」

本当のことをいちいち椿社長に言う必要なんてないのに、正直に白状してしまう自分が情けない。
もっと余裕を持って隣に座れたらいいのに、きっと私にはそんな度胸も自信もない。

「キス、なんで断ったの?」

「え?」

「されそうになる雰囲気にはなっていたんだろ?」

痛いところを突く問いに、私はまた視線を逸らす。
だけどその瞬間、インターホンの音が部屋に響いた。

「取ってくる」

そう言って立ち上がった椿社長が、私の髪を撫でた。
そして何事も無かったかのように部屋を出て行く。
たったそれだけで、心臓の音が加速する。
テーブルの上のワイングラスを掴むと、気持ちを落ち着かせるようにワインを口に含んだ。

あのままインターホンが鳴らなかったら、私はなんて答えていたのだろう。本当のことなんて言えるわけないのに。
椿社長を思い出したら、キス出来なかったなんて。
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