白馬の悪魔さま 【完】番外編追加

「ロビーで名前言えば、入れるようにしておく」

「わかりました」

単純だ。どこまでも。
たった一本の電話で、抱えていたはずの胸の痛みを忘れてしまう。
心がバカになる。
そんな私の想いをどこまで知っているのかわからない椿社長が、「早く来い」と電話越しに言う。
こういうのを都合のいい女と言うのではないだろうか。
でも今は、それでも良いと思ってしまう。
自分でも怖いほどに、恋が加速している。

電話を切った直後、落ち着こうと自分に言い聞かせながら、私はタクシーに飛び乗った。



いつもは椿社長に連れられて入るマンションの一階は、高級ホテルのロビーさながらのフロントまである。そこに立つコンシェルジュの男性に名前を伝えると、部屋の鍵を渡された。 
どうしたいのかもわからないのに、声を聞けば会いたくなる。止まらない。
抜け出せない蟻地獄のように、私はまたその部屋に辿り着いた。

「お邪魔します」

鍵を挿し込めば、本当に扉は開いた。
だけど返事はない。
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