ねぇ、教えてよ。
誰と体を重ねても感じられなかった温もりが、ここには確かにあった。
だけど、知ったのは温もりだけじゃない。
「先生…結婚してるの?」
触れた先生の左手に感じた違和感。
視線を落とせば薬指に光るもの。
知らなかった。
煙草を持つのも、チョークを持つのも…
右手だから。
「ああ、してた」
どうして過去形なの?
そう聞きたい気持ちをグッと飲み込んで。
何故だかチクリと痛む胸には気付かないフリをした。
ーーーもうすぐ、この場所は消えて無くなる。