ねぇ、教えてよ。
「安座間」
「ん?」
「苦しくなったら息を大きく吸って、ゆっくり吐けばいい」
ポンッ、
頭を撫でる手が、温かくて。
生きにくくて息苦しいこの世界で触れた優しさが、目に沁みた。
「悪い。煙が目に入ったか?」
「…違うって分かってるくせに」
先生。
こんな時間も明日になれば幻想になってしまうから。
最後に…私に教えてよ。
苦しくて、温かくて、
泣けてしまう、この気持ちの名前を。
「先生…この気持ちの名前は何ですか?」
オレンジに向けて高くかざした先生の左手。
薬指に輝くそれが、眩しく光っていた。
「大人になれば分かるよ」
薬指に向けてゆっくり吐き出した煙が、きっと先生の答え。
先生、貴方はズルイ人。
悪い大人の代表です。