秋の焼き芋争奪戦
「一筆書きでビルを描かないで下さいよ。線を辿るのが難しいんですから。」

「やろうと思えば、数え切れないほどの窓が描かれた超高層ビルも描けるぞ。曲線を使ってもいいのなら、人物画から風景画まで、ありとあらゆる絵を描いてやるからな。」

「いっそ、店長の絵描き歌でも考えてみたらどうですか。」

「お、それいいな。」

 よほど上機嫌なのか、店長は鼻歌まじりで絵を描き始めた。

「生卵?ゆで卵?卵がふたーつ転んだよ。フライパン?お鍋だよ。カレーを作るお鍋だよ。今日もコトコト、カレーを煮込む。お玉と、しゃもじが、くっ付いて、上から乗っかる鍋のフタ。顔を付けたら、はい、店長。と、こんな感じでどうだ。」

 どうやら、足から描くのがコツらしく、アミダくじが描かれた紙の片隅には、ずいぶんと丸っこい体型の人物が描かれた。確かに、こうして見ると、横に転んだ卵が両足、鍋は胴体、お玉と、しゃもじは、右腕と左腕、フタのツマミを鼻に見立てて顔を描くと、人の姿に見えなくも無い。

「本当にやるとは思いませんでした。」

「これだって経営戦略の一環だぞ。」

「何を言っているんですか。こんなことで経営が立て直せるなら、苦労しませんよ。」

 調子に乗って絵描き歌を考案したことが不満なのか、ウェイトレスは文句を言い続ける。だが、店長の一言が、その言葉を遮った。

「ウチの店には家族連れも来るだろう。大人はともかく、子供は長時間待つことに慣れていない。待っている間に、絵描き歌で遊んでもらえば、子供が待ちくたびれることもなくなるだろう。ワシは、そう言う点まで考えているんだ。」

 力説する店長であったが、どうも、その言葉に説得力が無い。

「ええい、キリが無い。これは冷蔵庫に入れておくから、全員、仕事に戻れ。」

 店長の発した一言で、アミダくじは打ち切られ、残り一つの団子は、冷蔵庫に仕舞われてしまった。
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