消える僕の前に、君が現れたら。
「はい。穂積の。どうぞ」
「いただきます」

カフェモカとカニのトマトソースパスタ。

遥人のこのセットは別格に美味い。

遥人の作ったのならなんでも美味いけど。

「遥人、お昼は?」

「まだだよ、お前らが帰ってたら1人で食べると思う」

そう言って手を休めることなく澄ちゃんのトーストを作ってく。

遥人は美味いだけじゃなくて早いんだよなあ。プロになればいいのに。

「はい、架澄の。いっとくけどお代はまけねーからな」

「はぁ?何よ。…まあいいけど。大人の財力なめんなよ、むしろ奏くんのも奢ってやるし」

「え、いいよ澄ちゃん。自分で払う」

「だって奏くん、一人暮らしでしょ?いいよたまには奢る」

まあ、有難い話。

ここは遠慮しないで甘えさせてもらった。

僕は一人暮らしでバイトも出来ないけど、たまにここの喫茶店で作らせてもらった時はちゃんとお金貰ってるし。

肉体労働ができない分、内職で稼いだり親の遺産に頼ってる。

兄貴は死んだ両親の会社を継いで僕に仕送りがあるから、それほど困ってはいない。

「俺には奢ってくれねーくせに」

「結婚できたらいくらでも奢ってあげる」

会うとバチバチに見えるけど、なんだかんだで仲良いからな。

姉弟だなって思う。

その証拠に小倉トーストとアイスコーヒーのセットの写真を撮ってはインスタにあげたり、美味しそうに食べる。

この後ケーキとかも頼むんだろうな。

僕もカニのトマトソースパスタを平らげ、カフェモカはテイクアウトにした。

薬飲む用に。

「んじゃ、僕ちょっと用あるから。もういくね」

「私奏くんの分も払っとくね」

「澄ちゃんありがとう」

そう言って澄ちゃんと遥人に手を振った。

「また来いよ。食べにでも作りにでも」

「うん、また」

喫茶店をでて、大学の外のベンチに腰を掛けた。

さっきテイクアウトしたカフェモカで薬を飲んで、一息ついた。

「はー…」

スマホを取り出して時間を確認すると、12時半。

30分くらいいたみたいだ。

そろそろいかないと午後は混むからな…。

僕は立ち上がって病院に向かった。


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