消える僕の前に、君が現れたら。
この話を読むのは3回目なんだけど、飽きなくて。

丁度読み終わった頃にアナウンスで呼ばれた。

診察室に入ると、いつも元気にニコニコ迎えてくれるヒロくんが、なんか表情が暗かった。

笑っていたけど、顔色が悪くて。

寝てないのかな。

「ヒロくん?」

妙な間の後、ヒロくんは返した。

「…あ、よう。最近どう?」

「あ。その事で」

そう言いながら椅子に腰掛けた。

「ん?どした?」

「いや、一昨日?病院行った日に、寝たら。ほんと信じられないんだけど。気づいたら今日で」

「…一日半寝てたって事か」

僕は頷いてから、

「いつもは長くて10時間くらいなんだけど」

と、返した。

「…」

ヒロくんは、黙り込んで。

パソコンを少しいじって、この間撮ったMRIの写真と肺のレントゲン写真を見せた。

「奏、ちょっと。よく聞いて」

ヒロくんが僕の下の名前を呼ぶ時は、大事な話がある時。

嫌な予感がする。

ヒロくんが肺のレントゲン写真をさして。

僕の左肺に何か、丸いものが、曇ってるように存在した。

「これ。あと、これ」

脳のMRIの黒く固まってる部分もさした。

「脳に、何らかの原因で血の塊が出来てる。…多分先天性嚢胞性肺疾患(せんてんせいのうほうせいはいしっかん)の、影響だと思われるもの」

「…うん」

呼吸が、少しずつ、少しずつ荒くなっていく。

次の言葉を聞くのが怖い。

聞きたくない。

「肺のは…」

唾を飲み込む。

何も、見えない。急に視界がくらんで目を塞いだ。

「癌だ」

震える声で聞いた。

「…助かるの?」

たった4文字、5文字。

「詳しい事はもう一度検査しないとだけど、手術してどっちもとるつもり。転移があれば…良性か悪性かによるけど」

怖い。

「最悪…余命がある」

息が、さらに、荒くなっていく。

「…そ、う」

手をとっても何も見えないまま。

何で。

何で、見えない?

「はっ、…はあっ、ひっ」

「奏…?奏!!」

ヒロくんからの言葉が、強く残っていた。

それが最後の記憶。

そうして、意識が、途切れた。


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