消える僕の前に、君が現れたら。
その時。

誰かの足音。

ここの、ベッドに向かってきた。

起き上がれないから、誰かはわからない。

けれどその誰かは、僕の顔までやってきてくれたから、直ぐにわかった。

「お」

「…ヒロくん」

ヒロくんは前の時より顔色は良くなってて。

ひょっとかして、癌の事とか伝えるの、躊躇したのかもって。

18年、その半分くらいは病院で過ごしてきたから、人の顔色、声色をよく見るようになった。

声が明るい時は退院出来る時。

暗い時は逆の、なんかあった時。

「あの、僕。倒れた…の?」

「…ああ。意識が飛んで。4日半ちょっとてとこ」

「それ…って」

「脳が、 やられたんだろうな。意識系のとこだったから。正確な位置は検査改めてしないと分からないけど」

「そっか」

「やっぱ、原因は先天性嚢胞性肺疾患がこじらせちゃって。前肺炎の手術したのが、残ってたから。でも、あれは心臓に近い部分だったから。…全部は無理だった」

ヒロくんはちゃんと。

事実を伝えてくれてる。

「そっか」

「だから、2週間くらい様子みて、検査入院も兼ねる。外出に関しては、半日なら許可出すよ。大丈夫、俺もいる。何より他のベテラン先生達も。大学病院だしな」

「でも」

声が震える。

大丈夫、落ち着け、僕。

ヒロくんを責めるな。

けど、体は言うことを聞かなかった。

「癌が残って。もし、転移とかあったら、さ」

「おう」

優しい声。

「…死ぬんでしょ」

微妙な、間が、空いた。

「…」

「それは分からない。ただ、今すぐ死ぬとか。そういうのじゃない」

「余命がつくだけで。死ぬんでしょ」

「…」

僕の口は続けた。

「もって何ヶ月…?」

「…3ヶ月から、それ以上。でも余命より生きる人は、沢山いる」

「そっか」

静かに、相槌を打った。

最悪僕は。

3ヶ月で死ぬんだ。

あと3ヶ月だったら。

僕の誕生日のほんの少し前だなあ。

僕。

死ぬんだ。






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