消える僕の前に、君が現れたら。
そんな事を考えていたら。

やって来てしまった、あの瞬間。

患者を知らせるチャイムが鳴る。

『穂積、穂積奏(ほづみ かなで)さん。診察室4の前にてお待ちください』

はあ…。

重たい尻を持ち上げ、すっと立つ。

診察室の前で待ってると。

少しスライドドアが開いて、そこから看護師さんが顔を出す。

「穂積さん、どうぞ」

と、ドアを開ける。

今回の看護師さんはフルネームで呼んでくれなかった。

対応が良いとする。

主治医は、3年くらい前からお世話になってる男の人。

医者とは思えないくらい人懐っこい、僕と正反対な人。

ヒロくん…神崎尋人(かんざき ひろと)、先生。

「大学おつかれ、どうだった?」

「一昨日一限で早退した。薬飲むの忘れちゃって。寝たら良くなったけど」

「じゃあ薬は効いてきてるみたいだな」

茶髪のくせっ毛が揺れながらボードにさらさらっと書く。

僕と10個以上歳が離れてんのにもっと若く見えるんだよな。

いつの間にかタメ口で話すくらい仲良くなってた。

「んーでも一応、検査しとくか。2、3日後。また来て」

「了解です」

「あ、薬も出しとくね、ちゃんと飲めよ」

「分かってるよ」

ヒロくんがへへっと笑う。

犬みたいに笑うもんだから医者なのかなあこの人って常々思うんだよね。

それからはMRIとったり、肺のレントゲン写真をとったり、採血。

まあ、いつもの。

3年くらいやってるもんだから、慣れてしまった。

検査が終わって薬受け取って病院を出る。

病気もってるけど、今は特にといった変化はない。一人暮らし。

溜まっていたレポートを夜中までやって終わらせた。

自炊は嫌になるけど、なるべく出来ることは全部自分でやるようにしないと。

誰かに頼るのはごめんだ。何しろ川原だって、大学からの友達だって。

誰も、僕の病気のことは、知らないから。

知られたく、ないから。


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