消える僕の前に、君が現れたら。
この先生の授業は前早退したからまだ遅れてる。

だから、今日に振り替えを入れた。

またしばらく授業を受けていると、彼女が話しかけてきて。

「…もしかして、法学部ですか?」

「まあ…一応」

「一緒だ」

彼女はまた嬉しそうに微笑む。

その後くすくす笑って。

「こんな初対面で一緒の人、初めて見ました」

そうなんだ、と返した。

あ、そう言えば。

この人の名前聞いてなかった。

同じ学部だし、これからも、会うかも。

時間は無駄にできない、女友達を作るのも悪くないと思った。

実際、高校までもそこそこ男女付き合いはいいほうだったと思う。

でも、僕がまず名乗らないとな…。

「あの」

振り絞ったような声で言った。

「ん?」

正面を向いていた彼女の顔が振り向く。

よく見れば顔は整ってるし血色もよくスタイルもいい。

彼氏も友達も多そうな人だな…コミュニケーション能力は引くほど高いし。

「遅れました。僕、穂積です」

「名字穂積っていうんですか…いいなー、下の名前は?」

この名字のどこがいいんだ。

画数多いし。下の名前はコンプレックスの塊だ。

彼女はまたはっとして。

「あ、すいません。なんか、言いたくなかったら、別に。図々しいですよね、私」

一応他人のテリトリーにずかずかとは入り込むタイプではなさそうだ。

「…奏」

「?」

「奏。穂積奏。女みたいですよね」

「ううん、全く。むしろ羨ましいかも。かっこいい名前」

…そんなこと初めて言われた。

彼女は驚きもしなかった。

「あの、そっちは…」

「あぁ、ごめんなさい。でも、笑わないでくださいよ」

名前で笑う人なんているだろうか。

いや、いたな。

僕の今までの人生が物語っている。

そうして彼女は口を開いた。


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