今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
ドアを開いた怜士は「ちょっといいか」と沙帆を呼び、すぐに去っていく。
そのあとを追いかけると、怜士はリビングでやってきた沙帆にカードキーを手渡した。
「無くすなよ」
「はい、ありがとうございます」
今日は完全プライベートということで、怜士は沙帆が初めて見る私服姿だった。
Vネックの白いケーブルニットに、細身のブラックデニムと、シンプルな装いだけれど洗練されている。
素材がいいから、シンプルだろうがなんだろうが様になるということだろう。
「部屋は全部見てきたか」
「あ、まだ全部は……」
広いリビングダイニングの他、トイレとバス、他に部屋が三つほどあった。
前回、初めてここに足を踏み入れた時には殺風景だった部屋も、家具や家電も入り、今すぐ生活をしていける空間へと姿を変えていた。
リビングを出ていく怜士のあとについていく。
沙帆の割り当てられた部屋のとなりのドアまで行った怜士は足を止め、その扉を開け放つ。
「となりは俺の部屋にしてある」
「はい。あの、じゃあこの前の部屋は……?」
沙帆の部屋の前にあるもう一つの扉。
ノブに手をかけ、そっと押し開けてみる。
中は窓にブラインドが下され薄暗く、家具などは一つも置かれていなかった。
「本当だったら、寝室にする部屋だったけど、偽りの婚約には必要ないと思ってな」