今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
確かに、表向きは婚約者として振舞ってほしいと言われた。
でもそれは、何か特別にアピールが必要な時にだけの話で、必要最低限の量だと思っていた。
「そうかもしれないですけど、何もここで……」
「なんだ、恥ずかしいのか」
核心を突かれ、沙帆の顔面は即熱を持つ。
「……恥ずかしいに、決まってます」
赤い顔で訴えるように怜士を見上げ、沙帆は正直に白状する。
そんな様子の沙帆に、怜士は一瞬目を見張った。
いつものように照れ隠しのような反応を返してくると思いきや、素直に認めた姿がなんともいじらしい。
お互いに見つめ合うような状態に、沙帆は慌てて視線をフロアガイドに戻した。
「……で、何階なんだ?」
「え、えっと……じゃあ、五階から見ます」
「五階な」
繋いだ手を怜士に引かれ、エスカレーターへと乗り込む。
怜士は自然な所作で自分の前に沙帆を立たせた。