今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~


薄暗く落ち着いた雰囲気の店内は洞窟の中ようで、中央に客の目の前で焼くのを披露する巨大な鉄板とコック帽をかぶったシェフが立っている。

そのカーブを描くカウンター席の端に案内され、岩のような壁の横に腰を下ろした。

カウンターの向こうにいる年配のシェフが、朗らかな表情で怜士の前にやって来る。

「先生、こんばんは」と挨拶をすると、怜士も「どうも」とにこやかに返事を返した。

怜士のことを〝先生〟と呼ぶ辺り、相当顔馴染みなのだろう。

すぐにウエイターがやってきて、しっかり磨かれたグラスにスパークリングウォーターを注いでいく。

目の前の鉄板にはキノコやたけのこ、三色のパプリカが載せられた。


「ここには、お仕事関係で……?」

「まぁ、そんなところだな。接待とか、会合とか」


一日オフな時間を過ごしてきて、沙帆は怜士が医師であることを少し忘れかけていた。

そしてふと、言うタイミングを掴めず言えていなかったことを思い出す。

きっと今言うタイミングなんだろうを思い、「あの」と話を切り出した。


「言いそびれてしまってたんですが……この間、偏見だと言われたこと、確かにそうだと反省しました。謝ります」

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