今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
良嗣と千華子の仕事柄、沙帆は二人と過ごす時間が極端に少なかった。
寂しいと素直に言わないことが親孝行。そう無意識に思っていた。
両親との時間を奪っているのは、二人の仕事のせい。
寂しい自分の気持ちや不満の矛先を、〝医師〟という仕事へと向けるようになっていった。
決して両親を嫌っているのではない。
二人の仕事が医師だからいけないのだ、と。
「私から両親を奪う憎っくき仕事……みたいな、子どもの頃はそんな風に思ってたんだと」
素直にそう告白すると、怜士は横でフッと笑う。
「なるほどな」とグラスを手に取った。
「まぁ……勝手に医師という仕事にそんな悪いイメージを持ってて、お付き合いした人たちが違う意味でロクでもなかったので、更に追い討ちをかけられた感じで……だから、つい口癖みたいに」
沙帆は誤魔化すようにへへっと笑ってみせる。
「あ、すみません、こんな話」
タイミングは随分と狂ってしまったけれど、自分の非を認めて謝ることができてよかったと沙帆は内心ホッと息をつく。
話題を変えようと、次に鉄板のせられた大きなホタテを目に「すごい、大きい」と声を弾ませた。