今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
食事を終えマンションに帰ってきたのは、二十時を少し回った頃だった。
怜士のあとに続き、まだ慣れないマンションのエレベーターに乗り込む。
三十六階には数十秒でたどり着き、怜士は先に沙帆に降りるように促す。
「今日は、すみませんでした。貴重なお休みに付き合っていただいて」
引っ越し作業を終えたら、本当は休みたかったのではないだろうかと沙帆は思っていた。
医師という仕事が憎いと思うほど、その忙しさは幼い頃から近くで目の当たりにしてきたからだ。
怜士の専門は心臓血管外科だと聞いている。
日勤ではオペにも多く入るだろうし、当直だってあるはずだ。
これから一緒に住むことになるこのマンションにも、もしかしたらほとんど帰ってこないのかもしれない。
「別に構わない。行く必要もあったしな」
横から沙帆の顔を覗き込んだ怜士は、何の気なしにその背中へと腕を回す。
ワンピースに羽織る薄手のカーディガンの上から怜士の大きな手が触れてきて、沙帆は再び鼓動を高鳴らせた。