今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
部屋の前に到着すると、怜士は沙帆を片手で抱いたまま、少しの荷物を持つ右手でカードキーを取り扱う。
ドアを開けて先に、広い玄関に沙帆を通した。
「沙帆」
「はい――っ?」
名前を呼ばれ、扉が閉まった音と同時に振り向くと、沙帆の身体は怜士の腕に引き寄せられ、回った腕に簡単に包囲されていた。
急な接近に、ぎゅんと心臓が音を立てて縮まる。
「そういえば、俺をなんと呼んでいるのかまだ聞いてない」
「えっ……?」
(なんて呼んでるかって、言われてみればまだなんとも呼んでない!)
「それは……まだ、特に……」
考えてみたら、『あの』とかで済んでいた気がする。
「じゃあ、婚約者らしく名前で呼ぶこと。わかったか?」
「は、はい……練習、しておきます」
「練習……じゃあ、本人を前に今言ってみろ」
この状況から逃れようと出てきた沙帆の言葉に、怜士はここぞとばかりにつけ込む。
「えと……怜士、さん。で、いいですか?」