今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
沙帆の柔らかな唇を堪能した怜士は、黙って潤んだ視線を受け止める。
互いに言葉を発することなく見つめ合う、時が止まったような緊張感。
怜士は黙ったまま柔和な笑みを浮かべ、沙帆の髪を優しく梳いた。
この間不意打ちで唇を奪われた時は、驚きと動揺を勢いに抗議することができた。
それなのに、今は声を出すことも許されない。
熱を孕んだ怜士の瞳から目がそらせず、ただただ鼓動の大きさを感じる。
怜士は動けない沙帆のこめかみに触れるだけの口付けを落とし、腕を解いて一人玄関の奥へと去っていく。
力が抜けてへたり込みそうになる足に踏ん張りをきかせて、沙帆はパンプスを脱ぎ自室へと駆け込んでいった。
(なんで、あんなキスしてくるの……?)
唇にありありと残された、甘く、どこか危険な感覚。
暴走した心臓は一向に治まる気配がなく、沙帆はしばらくドアの内側で胸を押さえて固まっていた。