今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
婚約をして一緒に住むまでの展開になった沙帆でさえ、怜士との強い縁には未だ驚かされている。
「でも、プールに落ちて出会った時から、もう決められた運命だったんでしょうね!」
「えぇ? そんなことは……」
「ありますって! あ〜、なんかドラマチック……あのイケメン先生と沙帆先輩が……お似合いですし……」
ガラスを磨きながらうっとりと呟く花梨は、どこか一人の世界に飛んでいる。
沙帆は花梨を呼び戻すように「そんなことないって」と大きめに声をかけた。
「あ、じゃあ、近いうちに結婚式とか挙げちゃったりするんですよね?」
そう聞かれて、沙帆の胸はどきりと音を立てる。
今のこの話で、〝ワケありの政略結婚〟だというところまでは花梨に話せていない。
いずれ告白しなくてはならない時がやってくるだろうけれど、今はまだその勇気を持ち合わせていなかった。
結婚式を挙げることは――この先、絶対にない。
「あー……うん、まだ何もなんだけどね」
嘘をついて『そうだね』と肯定するようなことも言えない。
そんな沙帆の苦しい返事に気付かない花梨は、手を止めパッと表情を輝かせた。