今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~


中庭へと出ると、十一月が近いというのに外は陽射しが暖かく、沙帆の仕事のユニフォームである長袖のポロシャツでちょうどよかった。

歩いていく怜士の横に並び、ちらりと様子を窺う。

均整の取れた顔を目の当たりすると、沙帆の脳内にはあの夜のことが鮮明に思い出され、また一人鼓動が打ち鳴り出すのに動揺した。

あの夜から、沙帆はずっと考えている。考えずにはいられないでいる。

どうしてあの時、怜士はあんなキスをしてきたのか。

プライベートな空間に二人きりになれば、他人も同然の距離感で触れ合うことなんてないと思っていた。

外で手を繋がれた時ももちろん戸惑ったけれど、それはまだ〝人の目に触れるから〟と説明がつく。

だけど、一歩部屋に入れば誰の目もない。

秘密を共有する自分たちしかいないのだから、偽る必要なんてないのだ。

それなのに、あんな崩れ落ちそうになる口付けをしてくるなんて、どういうつもりだったのだろう。

ただの、気分。そうとしか解釈できない。


「個人的に頼みたいことがあるんだ」

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