今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
床の上を行ったり来たりするモップの毛束を見つめながら、沙帆は小さく息を吐き出す。
午後になり、花梨と別れて病院内のモップがけを一人黙々と行なっている。
そして時折、さっき会って話した怜士のことを思い返しては、鼓動が忙しなくなるのを感じていた。
お互いの自由とエゴのために結んだ婚約。
それなのに、ふとした時に向けられる微笑みや優しさに胸が高鳴ってしまう。
怜士の方はなんの気なしに誰にでもそうしているのかもしれないけれど、沙帆はそう簡単に自己処理できない。
この婚約をする時、沙帆は怜士のことを冷徹な人間なんだろうと思っていた。
だって、あんな条件で婚約を迫るくらいだ。
感情に左右されることなんてなく、他人に興味もない。
婚約をして一緒に暮らしたとしても、自分の存在なんて空気も同然なんだろうと沙帆は思っていた。
(でも、変に意識しすぎるのはダメだよね。平常心、平常心……)
「ちょっと、そこの掃除のおばさん」