今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
キーボードから指を離した怜士は、ゆったりとした動作でチェアを立ち上がる。
そして、側に立っていた沙帆の頭をポンと撫で、側の収納棚へと足を運んだ。
そこからファイルを取り出し、中から何かを探し始める。
「確かに、沙帆の言い分にも一理あるな。下手に煽って、発作でも起きたらシャレにならない」
怜士は冗談のような口振りで言うけれど、咲良は心疾患を持っているのだ。
心労は絶対に良くないはず。
「そうですよ! そんなことになったら、本当に取り返しがつかないですから!」
「わかったよ、そうムキになるな。そんな心配されないように、治癒させるつもりで、彼女のことはずっと診てきてる」
不真面目に見えていた怜士の表情が一変、今まで沙帆が見たことがなかった医師の顔を覗かせる。
内に秘めた気迫を感じて、沙帆は「そう、ですか……」と言うので精一杯だった。
「そうだ、今日はこの後、何か予定はあるのか?」
「え、今日これから、ですか? いえ、特には。食事の買い物でもして、帰ろうかと」
「それなら、一緒に帰ろう。連れて行きたいところがある」
怜士はそう言い、すぐに戻るとデスク上の書類を手に足早に部屋を出ていった。