今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
「やっぱり、ご飯は誰かと食べるのが美味しいですね」
食事も終盤に差し掛かる頃、ミニトマトを口に運ぶ沙帆がしみじみとそう言った。
怜士自身も、こんな風に落ち着いた気持ちで穏やかな食事を取ったのはいつぶりだろうと思うほどだった。
普段、限られた時間の中で義務的にする食事が多い。
とりあえず倒れないために食べておく。
怜士にとって、食事なんて生きる為にしなくてはいけない行為の一つという程度なのだ。
「あ、でも、すみません。お疲れなのに、今日はお夕飯に付き合っていただきありがとうございました」
前言を撤回するように改まった沙帆の言葉に、怜士は内心焦って言葉を探す。
そんなこと全くない。
むしろ、またこういう時間が欲しいとすら思っている。
「いや、俺の方こそ、ありがとう。久しぶりにゆっくりまともな食事ができた」
怜士のそんな返事に、沙帆の表情はパッと明るく笑顔を見せる。
「本当ですか? 肉、切らせたのに?」
「今度は、他のものも切る」
「えっ、じゃあ怜士さんには玉ねぎお願いしようかな」
花が開いたような沙帆の顔を目に、怜士は胸の辺りが温かくなるの感じていた。
共にキッチンに立ち、こんな風に向かいあって食事を共にし、他愛ない話をして笑い合う。
この先も、そういう時間が自然とあればきっと幸せ――。
怜士はふと、そんなことを思っていた。