今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
胸のざわざわ
「沙帆先輩、新しい方のガラスクリーナーって新品持ってきてましたっけ? クリームタイプの方の」
手に持つ缶を揺すりながら、花梨は脚立の上から沙帆を見下ろす。
「うん、確か在庫一本持ってきてるはず。私、取ってくるよ」
「え、いいですよ、私行きます!」
「大丈夫、ちょうどダスター取りに行こうと思ってたから、ついでに見てくるね」
脚立を降りかけた花梨が「すみません、ありがとうございます!」と言うのを背に、沙帆は駐車場に停めてある社用車に一人向かった。
十一月中旬――。
秋も深まり、街を歩けば落ち葉の絨毯が広がる。
青かった葉は鮮やかに紅葉し、病院前のいちょう並木は多くの人が散歩を楽しみに訪れていた。
怜士との共同生活は、特に大きな変化なく続いている。
相変わらずあまり家で顔を合わすことは少ないけれど、会えば他愛ない話をする。