今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~


「あの時、落ちる少し前から声をかけていたのに気付く素振りもなかった」


沙帆は「えっ」と大きな二重の目を丸くし、鷹取を見上げる。

呼ばれていたなんて全く覚えにない。


「声をかけていたなんて、どうして……」

「それも気付いてなかったのか?」


今度は小さくため息をついて、鷹取は沙帆の前から離れていく。

対面式になっている向かいのソファーへと腰を下ろした。


「どういう持ち方してたか知らないが、バッグの中身を落としながら歩いてたから呼び止めた」

「えっ、うそ……」

「そんな嘘つくか。拾いながら声をかけているのに気付かないから、ついていったら、そのまま一直線でプールにどぼん、だもんな」


長い脚を組んで、鷹取は沙帆を正面から見据える。

切れ長の目は呆れたと物語っていて、沙帆は身が縮こまる思いだ。


「貧血で目眩がしたとか、てんかん持ちだとか……精神疾患も有り得る。あの状況を見たらそう思うのが普通だ」

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