今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
「沙帆、良かった、ずっと連絡してたのに」
「え……?」
目の前までやって来た謙太郎は、付き合っていた頃と変わらない短髪を整髪料で立ち上げたヘアスタイルで、一重の目尻を下げて笑顔をつくる。
最近一番そばで接している怜士が上背があるからか、昔は感じなかった謙太郎との目線の高さが妙に近くに感じた。
「どうして電話出てくれないんだよ。メッセージ入れても既読にならないし」
別れてから、沙帆は電話帳から謙太郎のアドレスを削除した。
何度が登録のない番号から着信が入っていたけれど、沙帆は知らない番号は出ないたちだ。
そのどれかが謙太郎の電話だったらしい。
「もう、連絡取る必要なんてないから……」
だけど、沙帆の口から謝罪の言葉は出てこない。
むしろ、今更話すことなどないと目を伏せていた。
「沙帆、ちゃんと話を聞いてほしいんだ。あれは誤解なんだよ」
(誤解……?)
忘れかけていたあの日のことを思い返してみる。
仕事が終わって見たスマホに入っていた、素っ気ない用件だけのメッセージ。
仕事なら仕方ないと諦めて、花梨の誘いに乗ったのだ。
その先で偶然にも謙太郎を見かけた。
その腕には知らない女性の細い指が絡みついていたというのに、どこをどう誤解だというのだろうか。