今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
もっとも、特に誕生日を盛大に祝うことも今はない。
成人してからは、毎年吉永に聞かれるものの誕生日パーティーも遠慮してきたし、家族以外の誰か特別に祝ってくれる相手だっていなかった。
毎年こうして樹がメッセージをくれ、忙しい両親に代わってご飯に連れていってくれることがあったくらいだ。
【今年は俺の出番はなさそうで残念】
お祝いメッセージにありがとうと返事をすると、既読になった直後にそんなメッセージが入ってきた。
それを見ながら、徐々に目が覚めていく。
樹からしたら、今日は婚約者である怜士と過ごすと思って疑わない話だろう。
もちろん、そんな予定はどこにもない。
「ハァ……そんなこと言えないけどね」
そもそも、今日が沙帆の誕生日なんて情報を怜士は持っていない。
ここ最近、夕飯を共にする機会はあったけれど、もうすぐ自分の誕生日だという話題を沙帆は出さなかった。
本当にしている婚約ではない。
だから、自分の誕生日を知らせる必要もない。
きっと来年は、もう一緒にいないのだろう。
ロールカーテンの向こうからは、朝を知らせる明るい光が射し込んでいる。
起き上がり伸びをして、沙帆は静かにベッドから足を出した。