今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
ここで一緒に住むことになった時、沙帆が医師の両親が忙しく一緒にいられなかったことから、医者は嫌いだと言っていることを怜士は知った。
自分も少なからずそんな経験をしてきた境遇にあり、沙帆の気持ちは共感できるものだった。
今、そばにいる自分に、どのくらいのことができるかはわからない。
それでも怜士は、自分といて沙帆が少しでも寂しいと思わなくなればいいと、いつからか淡い想いを秘めていた。
でも、現にこうして約束を破り寂しい想いをさせてしまっている。
その事実に、怜士はなんとも言えない複雑な気持ちに苛まれていた。
「誕生日だったのに……ごめん」
生まれて初めて感じる、胸がぎゅっと鷲掴みにされる切ない感覚。
素知らぬ顔をして、誕生日を祝おうと思っていた。
驚いた顔や喜ぶ顔を見たいと思っていた。
長い睫毛が影を落とす、沙帆の開かない瞳にそっと触れる。
今になって、予約していたディナーの店へ連絡をしていなかったことや、夕方寄るとオーダーしていたケーキも取りに行けなかったことに気が付いた。
「俺のせい、だよな……」
しんと静まり返る広いリビングに、後悔混じりの呟きが落ちた。