今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~


ここで一緒に住むことになった時、沙帆が医師の両親が忙しく一緒にいられなかったことから、医者は嫌いだと言っていることを怜士は知った。

自分も少なからずそんな経験をしてきた境遇にあり、沙帆の気持ちは共感できるものだった。

今、そばにいる自分に、どのくらいのことができるかはわからない。

それでも怜士は、自分といて沙帆が少しでも寂しいと思わなくなればいいと、いつからか淡い想いを秘めていた。

でも、現にこうして約束を破り寂しい想いをさせてしまっている。

その事実に、怜士はなんとも言えない複雑な気持ちに苛まれていた。


「誕生日だったのに……ごめん」


生まれて初めて感じる、胸がぎゅっと鷲掴みにされる切ない感覚。

素知らぬ顔をして、誕生日を祝おうと思っていた。

驚いた顔や喜ぶ顔を見たいと思っていた。

長い睫毛が影を落とす、沙帆の開かない瞳にそっと触れる。

今になって、予約していたディナーの店へ連絡をしていなかったことや、夕方寄るとオーダーしていたケーキも取りに行けなかったことに気が付いた。


「俺のせい、だよな……」


しんと静まり返る広いリビングに、後悔混じりの呟きが落ちた。

< 199 / 247 >

この作品をシェア

pagetop