今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
指先で沙帆の長く艶やかな髪を弄んでいた怜士は、沙帆の声にその手を離す。
怜士の切れ長の目に見つめられて、沙帆は意を決して小さく口を開いた。
「明日が、終わったら……私たち――」
終わり、なんですよね――?
たったそれだけの言葉が、どうしても出てこない。
膝の上で組み合わせた手に視線を落とし、ぎゅっと握り締める。
そんなことを聞くなんて、簡単なことだった。
それなのに、今は答えを聞くのが怖くてたまらない。
「明日が終わったら……か」
黙りこくる沙帆の横で、怜士が意味深に口を開く。
フッと笑みをこぼす気配を感じた途端、沙帆はソファーを立ち上がり、「すみません」と振り向いた。
「明日は、よろしくお願いします」
話の続きを拒否するように、受け取った紙袋を掴んでその場を離れていく。
自室に入り、沙帆は閉めたドアを背に瞳を閉じた。
『明日が終わったら、この関係もおしまいでいい――』
さっき、黙って話を聞いていたら、怜士はきっとそう告げたに違いない。
(私……怜士さんと離れたくないんだ……)
そう気付いたのは、役割を終えようとしている前日。
もっと早く自分の本心に素直になっていれば、何かが変わっていただろうか。
(怖くて聞けなかったのは、〝今〟のこの関係が終わってしまうからだ……)
遅すぎる自覚と、さよならのカウントダウンは、沙帆をどこまでも悲しませた。