今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
壁に沿って立つ沙帆に、怜士はさっと腕を回す。
腰を怜士の大きな手に抱かれ、沙帆は驚いて顔を上げた。
長身の高い怜士が、背を屈めて沙帆の耳元に近付く。
「髪、言いつけ通り切らなかったか?」
「あっ、はい……」
毛先を少し整える程度のカットで、長さは切らなかった。
怜士の用意したベロア素材のブラックのドレスに合うように、今日はダウンアップのスタイルにヘアセットしてもらっている。
膝下丈のマーメイドラインのドレスは、デコルテから手首まである袖がブラックのレースで切り替えになっているデザインで、上品な中にも女性の魅力を引き出す雰囲気だ。
「お構いなく、じゃなくて、今日はお披露目のために出席させてるんだろ?」
腰を抱いた怜士に連れられ、留まっていた場所から連れ出されていく。
「沙帆のご両親にもさっき会ったよ。それから、兄貴にも」
「そう、でしたか……」
会場に入ってから、沙帆も両親と樹には顔を合わせて少し立ち話をした。
三人もこういう場だと知り合いに多く会うらしく、怜士同様挨拶に忙しそうだった。
「三角とは大学ぶりだったから、つい引き止めすぎた。今度改めて会おうと話したよ」
「兄も喜ぶと思います、そういう機会が作れたら」