今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
名刺を手に挨拶をし合う人、グラスや料理を手に談笑する人。
賑やかな会場を歩いていきながら、集まってくる視線に沙帆はどこを見たらいいのかわからなくなってくる。
「鷹取先生!」と早速男性の声に呼び止められて、怜士は沙帆をしっかり腕に抱いたまま足を止めた。
「前田さん、いつもお世話になっております」
「こちらこそいつもご贔屓いただきまして」
怜士に挨拶をしながらも、男性の視線はとなりの沙帆へと向いている。
怜士が大事そうに寄り添っているのだ、今後のために紹介してもらおうと思っているに違いない。
「そちらは……?」
「ああ、私の婚約者です。以後、お見知り置きを」
怜士に沙帆を紹介された男性は、目を大きくして満面の笑みを浮かべる。
「それはそれは! 先生の次期奥様ですか! メディカル出版の前田と申します――」
男性の上げた声に、周囲にいた人たちの目が一斉に集まってくる。
沙帆は「今後ともよろしくお願いします」と頭を下げながら、怜士の目的が果たされていくことに胸の締め付けを感じていた。