今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
それから次々と、二人の元に挨拶をしたい人間が集まった。
『次期病院長の奥様になる人だ』
その情報はあっという間に会場内を駆け巡り、今のうちに沙帆に自分の名前を覚えてもらおうと、多くが名刺を手に訪れた。
笑顔で応対しながらも、沙帆は自分に挨拶をするこの時間も、手渡してくれた名刺も、全て無駄になってしまうのにと、思わずにはいられなかった。
(でも、これが私の本来の役目……)
怜士はこの日のこの為に、沙帆との偽りの婚約を望んだのだ。
「大丈夫か?」
挨拶の合間、怜士は沙帆の顔を覗き込み様子を窺う。
入れ替わり立ち替わりの挨拶で沙帆が疲れていることに気付き、体調を気遣った。
「はい、大丈夫です。でも、少し外に出て休んできます」
「一緒に行こう」
「いえ、大丈夫です。怜士さんが席を外すのはよくないので、一人で大丈夫ですので」
「そうか、わかった」
怜士の手が離れていき、沙帆はその場から立ち去っていく。
背を向けて数歩で背後から「沙帆」と名前で呼び止められた。
「戻ってきたら、あとで話があるんだ」