今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~


じっと沙帆の目だけを見つめ、怜士は告げる。

沙帆の中で嫌な予感が広がり、呼吸をするのを忘れそうになった。

努めて笑顔で小さく頷き、再び怜士に背を向ける。

会場の外を目指しながら、込み上げる様々な想いに自然と目に涙が浮かんだ。

話とは、きっと今日以降の自分たちの行方についてだ。

婚約破棄となったとするのは、いつにするのか。

そういう具体的な話かもしれない。

考えただけで、その話し合いの場で平然としていられる自信がない。

賑わう会場から外へと出て行き、あてもなくホテル内を歩いていく。

(このまま、どこかに行ってしまいたい……話なんて、聞きたくないよ)

とぼとぼとひと気の少ない絨毯がふかふかの通路を歩いていくと、突然、背後から「沙帆」と名前を呼ばれた。

「――あっ……」

振り返った先を見て、どうしてここに彼がいるのかと沙帆は目を疑う。

その間にも距離を詰められて、沙帆はじっとその顔を凝視した。

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