今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
(うそ……嘘でしょ……?)
自分の目に映る光景を理解するまで数秒を要した。
他人の空似ではないだろうか。
そう疑いながら目を凝らすたびに、その願いのような想いは砕かれていく。
顔はもちろん、髪型や姿勢、よく見てきたスーツの背格好も、見間違えるはずがない。
今日は会えないと言った彼。
その彼が今、自分の視線の先にいる。
急用が入ったと言っていたのに、どうしてこんなところにいるのだろう。
人違いだと思いたかったのは、彼が一人ではなかったから。
腕に絡みつく、爪先まで完璧な細い指から目が離せない。
そこにある光景は、誰が見たって仲睦まじい恋人同士にしか見えなかった。
「沙帆先輩? どうしたんですか? 大丈夫です?」
立ち止まったまま動けなくなった沙帆の腕をさすり、花梨は心配そうに声をかけ続ける。
遠かった花梨の声にハッと我に返った沙帆は、「ごめん」と花梨を見ずに口を開いた。
「ちょっと、ごめん。急用思い出した。先に行ってて」