今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
「奥さまが、いつものアップルパイをお持ち帰りになると連絡をいただきましたので、アールグレイは必須でございます」
「もう……吉永さん任せで、紅茶一つまともに入れれないんだから」
ため息混じりに不満を口にした沙帆を、吉永はやんわりと「沙帆さん」と制する。
沙帆は仕方なさそうに「わかってますー」と口を噤んだ。
沙帆の物心つくころから三角家に家政婦として雇われていた吉永も、今や還暦を過ぎ、こうして呼ばれた日に三角家を訪れる程度。
雇い主と家政婦という間柄であっても、古くから吉永に世話になってきた三角家の人々は、吉永を身内のように思っている。
特に沙帆は吉永を慕っていて、こうして自宅で吉永と過ごす時間がホッとして大好きだ。
吉永の仕事ぶりをみて、今の仕事に就きたいと思ったし、やりがいも感じられている。
吉永の存在は、沙帆の人生に影響を与えたひとりといえる。