今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
そそくさと吉永が去っていくと、すぐに賑やかな話し声が聞こえてくる。
沙帆はソファーから立ち上がることなく、リビングへと顔を出す面々を待っていた。
両親と揃って顔を合わすのはいつぶりだろうかと、ぼんやり考える。
良嗣も千華子も、この家に毎日帰ってきてはいるものの、多忙ゆえ出たり入ったりが多い。
三人が同時に顔を合わせることは珍しいのだ。
それは沙帆が子どもの頃から変わらない。
「沙帆、早かったのね」
はじめに顔を出したのはいつも通り千華子だった。
ワンピースが好きな千華子は、今日もウエストマークされた黒い膝丈フレアのワンピースを着ている。
肩上で揺れる黒髪を耳にかけながら沙帆の目の前までやってきた。
そのあとから良嗣、吉永と続く。
良嗣はノーネクタイのシャツにチャコールグレーのスラックスという姿で、片手にジャケットを持っていた。
オールバックの前髪にメッシュのように入った白髪は、わざとオシャレで残している。
二人が沙帆の向かいに腰を下ろすと、キッチンに入っていった吉永がティーポットを手にやって来た。
「おかえりなさい。で……今日の話っていうのは?」