今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
「えっ、沙帆先輩⁉︎」
背中で花梨の声を受け止めてももちろん振り返ることもできず、歩みだした足はどんどんと加速する。
歩いてきたロビーを抜け、逃げるように一階のフロアを突き進む。
バッと一度背後を振り返ってみると、花梨も、もちろん彼が追いかけてきていることもなかった。
気付かれなくてよかったと安堵する気持ちと、姿に気付いて彼が後を追ってきてくれていたらという淡い期待が交錯する。
(急用なんて言って断って、他の人と会うって、これって二股ってことだよね⁉︎)
今になって、動悸がしていることに気がつく。
目撃してしまったあの瞬間の映像が目に焼き付いて離れず、足元から崩れ落ちそうになるのをなんとか踏ん張って歩いていた。
屋外へと続く小さな出口から外へと出ていく。
そこはちょうど、オープンカフェとビヤガーデンがあり、その前面にナイトプールが開催されている賑やかな一帯だった。
行き交う人に紛れるようにして、屋外施設をとぼとぼと歩いていく。
「おい、ちょっと、そこの」