今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
桜吹雪が舞う華やかな桃色の振り袖を着付け、髪もダウンアップでセットしてもらった沙帆は、久しぶりの窮屈感に空を見上げてため息をついた。
九月下旬の、週末土曜日――。
救いといえば、今日は連日続いていた夏日が落ち着いたことくらいだった。
朝十時には、自宅へ千華子御用達のサロンからヘアメイクスタッフと着付けスタッフがやってきて、沙帆はあっという間にお見合いスタイルに仕上げられた。
「ハァ……憂鬱」
吉永が呼んだタクシーが自宅前に到着し、沙帆は吉永に見送られ玄関をあとにする。
「沙帆さん」
付き添う吉永から優しく名前を呼ばれ、沙帆は開いたタクシーのドアを前に足を止めた。
「お相手、素敵な方だといいですね」
沙帆がホッとするいつもの朗らかな笑顔を見せ、吉永は小さく頷く。
それだけで沙帆は自然と気持ちが楽になった。
「うん、ありがとう。いってきます」
吉永に見送られ、乗り込んだタクシーから控え目に手を振る。
丁寧に頭を下げる姿を目に、タクシーはゆっくりと発進した。