今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~


(あの人は、結婚しているという事実が欲しいだけなんだよな……)

それは沙帆が考えてきた結婚という形とは程遠くて、とても幸せにはなれそうもない。

結婚とは、想い合って互いを必要と求め、一生を共にしたいと願ってするものだと、沙帆は思ってきた。

お見合いという席で知り合おうが、やっぱり互いを想い合える人と一緒になりたい。

(そんなの、理想でしかないのかな……)

そして、沙帆があの日から怜士のことを考えてしまう理由はもう一つある。

『医者を一緒くたにダメ人間みたいに言うのは、迷惑な話だ』

あのときの怜士の厳しい声音。

一瞬にして冷然とした視線は、それまで勢いがあった沙帆が怯んでしまうほどだった。

今まで考えたこともなかったけれど、確かに偏見だと気付いてしまった。

医者がダメ人間だというのは、沙帆が知っている限りでは、という話だ。


「あっ、沙帆先輩、見てください!」


箸を持ったまま一点を見つめていた沙帆に、花梨が意識を呼び戻すような高い声を上げる。

ハッとして花梨の指差す先に目を向けると、中庭の遊歩道に怜士の姿があった。

車椅子に乗る患者と、それを押す看護師。

その横を付き添うようにして患者と話している怜士の姿だ。

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