今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
個室の席に案内されると、樹は決まった動作のように「どれにする?」と、ラミネートされたドリンクメニューを沙帆に差し出す。
目に付いた杏サワーに決め、すぐにドリンクメニューを返却した。
「どうだ、最近は」
オーダーを取りに来たスタッフに、ドリンクと適当なフードを注文すると、樹は唐突に切り出す。
向かい合って座る正面からじっと顔を見られて、沙帆は「え、何?」とにこりと微笑んだ。
「見合い、久しぶりにしたんだって? 母さんから聞いた」
「ああ……うん、まぁ」
一緒に住まなくなった今でも、千華子と樹は病院で毎日顔を合わせている。
例のお見合いを進めたい千華子が、樹にも知らせたのだろう。
「相手、鷹取怜士だと聞いた」
「え……お兄ちゃん、まさか知り合い?」
言い方とフルネームで名前を出したことで、沙帆は思わずそんな質問を口にしていた。
樹は真顔のまま「ああ」と短く答える。
「大学の同期なんだ。途中で向こうは留学したみたいだけど、覚えてる」