今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
お見合いのとき、千華子が「この子の兄が五つ上で、同じ歳になりますね」なんてことを言ってたのを沙帆はなんとなく覚えていた。
その後、大学の話で盛り上がっていたから、そういうことなのだろう。
怜士も樹と同じく、立ち止まることなく医学部へと進み、医師となったことを知る。
「そっか、そうなんだ……」
そんなタイミングで「失礼します」とさっきのスタッフがやってきて、杏サワーと焼酎の瓶とグラス、ロックアイスを運んできた。
樹が一杯を作ると、無言でグラスを重ね合わせる。
「で……話は進めるのか?」
「え、あ……うーん……お父さんたちは、そうしてほしいみたいだけどね」
「やっぱり、医者は嫌か」
沙帆の気持ちをよく知っている樹は、仕方なさそうに形のいい眉を下げる。
沙帆はグラスを手に、マドラーで沈んでいる杏の実をつついた。
「それは、まぁね……でも、それよりも、相手が……」
そこまで言いかけて、沙帆は口を噤む。
樹が小首を傾げるのを目に、「ううん」と横に大きく首を振った。