今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
席を立った怜士と良嗣が玄関に向かいながら談笑する後ろで、沙帆は「あなたは外までお見送りしてきなさい」と千華子に耳打ちされた。
靴を履くと、怜士は改めて良嗣と千華子に丁寧な挨拶をする。
二人はやっと上手くいき始めた娘の縁談に、心底安堵したような表情で怜士の背中を見送っていた。
しんと静まりかえる夜の住宅地に、二人の靴の音だけが聞こえる。
玄関を振り返り、誰の姿もないことを確認した沙帆は、先を歩く怜士に向かって「あのっ」と声をかけた。
「今日来るなんて聞いてません!」
「ああ……連絡を入れようと思ったけど、考えたら連絡先を聞きそびれていたことに気付いて、できなかった。教えておいてくれ」
そういえばそうだ。
沙帆も怜士の連絡先は聞いていない。
この間は逃げるようにして立ち去ってしまったから、そういう肝心な話をしなかった。
門を出てシャッター付きのガレージに向かうと、この間乗せられた黒塗りの高級車が駐車されていた。