からめる小指  ~愛し合う思い~
ガチャ。

鍵を回す音を聞いていたのか…………

「せ~んせい!」と

久しぶりの笑顔を、隣のドアから覗かせた。

「お帰りなさい。」

いつもなら嬉しいはずの言葉さえ、虚しく聞こえる。

「お邪魔しま~す。」

疑心暗鬼の俺は………別れを切り出されることばかりが頭を占め

苛ついて、千尋の表情すらまともに見ていなかった。

ソファーに座って、膝に抱くことも

温かいココアを入れることもなく………

まだ、立ったままの千尋に

「なんの用?」と、冷たい言葉をぶつけた。

「えっ?……………あの……………」

戸惑う千尋に

「休み………姉ちゃんと買い物に行って、楽しかった?
まぁ、ホントに姉ちゃんかは怪しいけど。
俺と会わない口実だったりして。」

これ程嫌みが出るのかと、自分でも驚く。

「……………違う………………誤解だよ……………。
ホントに………………お姉ちゃんとだから………………。」

意味が分からないと、呆然としている千尋には…………

泣くことさえ出来ないようだった。

「……………千尋…………別れよう。
卒業式までって…………本当は……言うつもりだったんだけど。
一人の教師として、最後は見送りたいって……。
生徒としての伊藤千尋も大好きだったから…………。
卒業式の後に、もう一度告白して………結婚してって……プロポーズしようって。
でも………もうやめるよ。
尋は………俺と別れて自由になっていいよ。
ごめん、縛りつけてた。
まだ高校生だったのに。
新しい恋をして………下さい。」
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