発つ者記憶に残らず【完】
部屋の中は殺風景で、机、椅子、本棚、ベッド…と必要最低限の家具しかなくそれほど大きくもなかった。
レイドは靴を履いたままベッドに勢いよく横たわると、私に背を向けて寝転がった。何か話す気なのかと思っていたのにこんな扱いをされて顔をしかめる。だって放置プレイなんてこの状況で許されると思う?
ずんずんとわざと大股で近づきその肩に手をかけて揺さぶろうとしたら、素早い動作で向こう側に転がってベッドから立ち上がり呆気なくその目論みは達成できなかった。睨みつけるようなその目と視線がぶつかって思わずパッと手を引くと前からため息が聞こえてまた視線を前に戻した。
「…おまえ、マリアだろ」
「…?」
さっきまでの尖った空気が嘘みたいに丸くなった。ディアンヌじゃないの?と思って首を傾げるとレイドはまた不機嫌になった。
「何か言ったらどうだ」
ため息交じりにそう言われたけど何を言えばいいかわからずすぐに言葉が出なかった。でも何かしようと思ってバッグからメモを取り出して彼に表面を見せた。これを見せれば何か情報を引き出せるかもしれない。
「…これの意味、わかる?」
敬語の方がよかっただろうか、と思ったけど親しい仲なのかもしれないという一縷の望みをかけてため口で聞くと無言でそれを受け取ってくれたからこれで合ってるんだ、と胸を撫でおろした。
彼はそれを見て深刻そうな顔をした。
「…いや」
その表情とは裏腹に否定的な言葉が出てきて思いっきり眉間にしわを寄せてしまった。あなたでもわからないんじゃもうどうしようもないんだけど…!
彼はこっちまで来るとメモを私に返して部屋のドアの前まで歩いて無表情で振り返ってきた。
「…ついてこい」
それだけ言って勝手に出て行くものだから慌てて後を追いかけたけど、私のこんな態度が気にならないのだろうか、と思った。知っている人ならなおさら、おまえどうしたんだよ?ぐらいは言ってもおかしくないと思う。なのに何も言わずにこうして一緒にいるなんて不自然すぎる。
本当に何を考えているかわからない、と見えないことをいいことにその背中に変顔をしたりあかんべーをしたりしていると、急に立ち止まってこっちを見たからすごい微妙な顔を見られて動揺したけど何事もなかったかのようにすぼめた口を引っ込めて平静を装った。
危ない危ない。もろバレるところだった。
「…ここがおまえの部屋」
ぶっきらぼうにそう告げられ、さっさと彼は来た道を戻って行った。途方に暮れるとはこのことでまた放置され、やられた…と呆然とする。
何も言及されずによかった、と思ったのも事実で気を引き締めて私の部屋だと言われたところに入ると凄く女の子らしいレイアウトの部屋でかなりビビった。
この子こんな趣味してたんだ、とおっかなびっくりドアを閉める。こっちの部屋はさっきの部屋よりも広くて、ピンクのタンスにカーテン付きの花柄のベッド、壁の色も黄色で机の上には小物がたくさん置いてあった。ドレッサーも壁掛け時計もみんなファンシーで度肝を抜かれる。
いやごめん、全然趣味合わない、と思いつつ机の一番上の引き出しを開けると手帳が1冊だけ大事にしまってあった。それを見つけて私は興奮する。やっと手がかりらしきものを見つけられてホッとしたのだ。