発つ者記憶に残らず【完】


それを取り出し引き出しを閉めて机の上に置いて立ったままやはり花柄の表紙を開く。最初のページには何も書かれていなかったけど、そのページをめくると女の子らしい丸い文字で書かれていてしかも全部日本語でこれまたビックリしてしまった。

え、ちょっと待って、と内容を読む前にパラパラとめくるといろんな言語で書かれていて目が点になる。マリアだかディアンヌだかわからないけど彼女は何者なんだろう、と首をひねるしかない。

気を取り直して日本語で書かれた2ページ目を再び開くと目で文字を追った。

"今、私はディアンヌ。でもこれを読んでるあなたはマリア"

最初の文を読んでも意味不明でさらに読み進める。

"知ってる?私たちは元々同じ魂だったけど、いつの間にか分裂してバラバラになってしまったの。あなたは私で私はあなた。私の罪をあなたも背負うことになって本当に申し訳なく思ってる。あなたがいちいち記憶を無くしているのはあなたの方が魂としては不完全で、記憶は私の中に蓄積しているわ"

確かに転生中は覚えてないけど、と思いつつ信じられない気持ちで手帳を読む。この次は別の言語になっていた。確かこれは26歳のときに職場で告白されたときのものだ。

"本当は転生先でも以前の記憶を保ってまた新しい生活をして、また失って、また始めて、の繰り返しをして好きになりつつあった相手を裏切り続けることで私を苦しめる罰だったのに、あなたが私から生まれたことでその罰が少し変わってしまったの。私はもう、転生できない。転生どころか新しい生を受けることもできなくなってしまった。ディアンヌが私にとって最後の生になってしまったのよ"

ディアンヌはもう転生できなくなったらしいけど、私はこうしてまた別の誰か…マリアになってる。ということは、と思って次のページをめくると今度はユニコーンがいた世界の文字になっていた。こうして文字を変えているのはもしかしたら昔を思い出しながら書いていて感傷に浸っているからかもしれない、と思うとなんだか切なくなった。

"マリア、というのは私が勝手に名前をつけただけだからもし混乱していたらごめんなさい。あなたは紛れもなくディアンヌよ。私が消滅したから今度はあなたがこの体の所有者になったの…いきなりこんな体で記憶も残っててビックリしたかしら?"

ええ、かなり。と1人で大きく頷いた。

"もうあなたは1人前になったのよ。これまでは私の…コピーみたいな存在で、私がいた世界の後を辿って転生してた。1つ前に出会った津田沼くん、かっこよかったでしょ?私の場合は卒業式の日に告白されたんだけどあなたの場合はどうなったかしら?ごめんなさいね、それを確認できないまま消えそうだから残念でちょっと聞いてみました"

卒業式?随分片想いを引きずったんだな津田沼、と思いつつ、パラレルワールドが存在して同一人物がいてしかも違う展開が繰り広げられていたなんて思ってもいなかった。

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