発つ者記憶に残らず【完】
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「あの、ディアンヌ様」
「なに?」
「どこまでついて来られるのでしょうか…」
「あなたの目的地まで」
「そ、そうでございますよね…」
しばらく無言で歩いていると、ビクビクしながらそう聞かれて至極真っ当なことを言ったらため息混じりの返事が聞こえた。
まあ確かに迷惑なのはわかってるけど、あいつに関わる情報が欲しいだけだから我慢してほしい。1度行っただけだから彼の部屋の場所も忘れてしまってどうにもできないのだ。1階なのはわかってるけど、人の目が届きやすいところには行きたくない。
そもそもここは王宮…でも、この騎士がいるということはこのモブが実は地位が高い騎士なのか、この王宮のセキュリティが甘いだけなのか…まだまだ知らないことが多い。
「あなた、名前は?」
そろそろモブから昇格させてあげようと思って何気なく聞くと、彼はきょどりながらも答えてくれた。
「ト、トーレンです…」
「ふーん」
なんだか中国の名前みたい、と思いながらさらっと流した。うん、トーレンね。でもなんでそんなに挙動不審なの?何か悪いことしたの?それとも私が何か悪いことした?と気になっていると、彼について歩いていたらだんだんと人気が増えてきたことに気づいた。そういえば、階段を下りたな、と思い出す。
騎士が大半で、私が珍しいのかみんなこっちを見ている。注目されるのが嫌で私とあまり話したくなかったのかもしれない。まあ赤い髪だけでも目立つからね。
そう思うと可哀想になってきた。注目を浴びるのは居心地悪いよね。
「それ、貸して」
「そ、それ…?」
「書類よ書類」
「ああっ…!」
トロいなあ、と思いつつトーレンが抱えていた書類を上から強引に何枚か持ち上げた。素っ頓狂な声をトーレンが出したからまた人の目が集まってくる。
私は取った書類の1枚を手に取って読んでみた。
「ふーん…こんな難しいのあなたよくできるわね」
「え、あ、いいえ…そんなことは…」
私を引き連れているトーレンではなく、トーレンにちょっかいを出している私に注意が向けばいいかな、ぐらいに思っていたのに素直に関心してしまった。
地形や地質、雨の頻度、ここからの距離…何か建物の図案の下書きなのか、角度を表す線がいくつも入っていて番号がいくつもふってある。これを白紙から書いたのであれば相当の画力だし空間把握能力が半端じゃない。
人は見かけによらないってことね。