発つ者記憶に残らず【完】
「それに、ドラゴン自体も不思議な存在だ。言葉を操り炎も操る…他の生き物とは違う独特な進化を遂げたドラゴンがいるのなら人知を超えた現象が起きたところで不思議ではないだろう」
「それはまあ、そうですが…彼女はある意味部外者なのですよ?」
「ふっ、部外者か。その部外者と仲良く話しながらここまで来たのはどこのどいつだったか」
「いやあの、それは…!」
「廊下からここまで響いてきたぞ」
意地悪に口角を上げるノイシュにトーレンは目の前で両手を必死に振ってたじたじだった。
なるほどそうか。だからノイシュがドアを開けたのか、と思いつき私も気まずくなる。そこまで大きな声を出していた覚えはないけど、わざわざノイシュが出てきたということは聞こえていたということで響いていたのは事実なんだろう。
私も話に夢中になっていて気が付かなかった。
「あ、なら、私からも1つ質問があります」
トーレンがノイシュの攻撃から逃れようと軽く手を挙げて私を見た。まあだいたいその予想はついている。
「昨夜、なぜ外におられたのですか?」
「外?」
「はい。ディアンヌ…ええっと、マリアさん?は昨夜レイド様と一緒にいたのです」
「なんだと?」
ノイシュの声色が低くなって私はあわあわとする。それが怒っているように見えて焦ったけど怒ってるのとは違うみたいで首をかしげた。
ノイシュの感情の読めない眼差しを受け止める。
「説明できるか?」
「えっと…気づいたら山の中に倒れていて、頭上をドラゴンが飛んで行ったのでその方向に向かったら…その…とある村が焼かれていました。そのときにレイド様、に見つかりそのまま連れて来られたのです」
私も様を付けるべきか迷ってつられて結局レイド様、と呼んだ。私の言葉を聞いてもノイシュの表情は変わらず、眉根を寄せたままだった。まあ、諸々の事情は省いたからかもしれないけど。
「ヘイト村の目撃者か…なら、もう部外者ではない。トーレン、ヘイト村の資料はどれだ」
「あ、はい!これです!」
んーと、というわけで私は部外者ではなくなり寛大な心の持ち主の上兄の計らいによって、私は追放されずディアンヌとしてここにいていいことになりましたとさ、めでたしめでたし…
めでたしめでたし…?